浮き憂き江戸文学♪

江戸時代の作品を崩し字と共に分かりやすく紹介します♪

2023年11月

[3]灯台鬼 ~『狂歌百鬼夜興』に描かれた妖怪たち~

haname それでは、続いて、小袖の手セットで描かれている灯台鬼をどうぞヾ(๑╹◡╹)ノ"

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狂歌百鬼夜興
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灯台鬼01灯台鬼02
『狂歌百鬼夜興《きょうかひゃっきやきょう》』[天保元(1830)年刊、菊廻屋真恵美《きくのやまえみ》編、青洋《せいよう》画、虎岳《こがく》画]
大阪公立大学中百舌鳥図書館所蔵(CC BY)国書データベース
※カラーの画像は、こちらでご覧になれます。国書データベース
※以下、赤字の書入れは筆者。


【原文】

▢燈臺鬼
 蝋燭《らうそく》の 流るゝ時は 燈臺の 鬼の目にさへ 涙見えけり  寸美丸《すみまる》


【現代語訳】

灯台鬼《とうだいき》
 ロウソクが流れる時は、灯台鬼にさえが見えます(灯台鬼でさえ涙を流します)[「鬼の目にも涙」をふまえた]。 by 寸美丸《すみまる》


haname【解説】

 挿絵灯台鬼小袖の手演奏しています。
 灯台鬼を出せないので(後述)、代わりにを吹いてを出しているのでしょうかね。
 小袖の手しかないので、笛の指抑え補助と言うわけです。

 この狂歌だけを見ると、灯台鬼は、流れ落ちるロウソクのロウが熱くて泣いている、と解釈できますね。


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今昔百鬼拾遺
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haname  残念ながら、『狂歌百鬼夜行』『狂歌百物語』には、灯台鬼登場しないのですが、鳥山石燕妖怪画集には、灯台鬼由来もしっかり書かれているので見てみましょう。

灯台鬼石燕
灯台鬼石燕+灯台鬼石燕++
『今昔百鬼拾遺』[安永十(1780)年刊、鳥山石燕作画]
※国立国会図書館デジタルコレクション 百鬼夜行拾遺 3巻 [2] - 国立国会図書館デジタルコレクション


【原文】

 燈臺鬼《とうだいき》

 軽大臣《かるのだいじん》、遣唐使《けんとうし》たりし時、唐人《とうじん》、大臣《だいじん》に啞《おし》になる藥《くすり》を飲ませ、身《ミ》を彩《いろど》り、頭《かしら》に燈臺《とうだい》を戴《いたゞ》かしめて、燈臺鬼《とうだいき》と名付く。
 其の子、弻宰相《ひつのさいしやう》、入唐《につとう》して、父《ちゝ》を尋《たづ》ぬ。
 燈臺鬼《とうだいき》、涙《なミだ》を流し、指《ゆび》を噛《か》み切り、血を以て詩《し》を書《しよ》して曰《いハ》く、
 我《われ》ハ元日本蕐京《もとにつぽんくハけい》の客《かく》
 汝《なんぢ》ハ是《これ》一家同姓《いつけどうセう》の人《ひと》
 子《こ》と為《な》り爺《おや》と為《な》る前世《ゼんゼ》の契《ちぎり》
 山《やま》を隔《へだ》て海《うみ》を隔て変生《へんゼう》辛《から》し
 年《とし》を経《へ》て涙《なミだ》を流《なが》す蓬蒿《ほうかう》の宿《ヤど》
 日《ひ》を逐《お》ひ思《おも》ひを馳《は》す蘭菊《らんぎく》の親《しん》
 形《かたち》他郷《たきヤう》に破《やぶ》れて燈鬼《とうき》と作《な》る
 爭《いか》でか旧里《きうり》に皈《かへ》りて斯《こ》の身《ミ》を寄《よ》せん


【現代語訳】

 灯台鬼《とうだいき》

 軽大臣《かるのだいじん》は、遣唐使に行きました。
 その時、唐人軽大臣言葉を話せなくなるを飲ませ、彩色し、灯台[燭台に似た火を灯す照明器具]を乗せ、灯台鬼名付けました。
 軽大臣の子弼宰相《ひつのさいしょう》は、に行ってを捜しました。
 灯台鬼弼宰相を見るとを流し、を噛み切って、を書きました。

 日本の京都から来た客人です。
 あなた私の家族です。
 前世からのあなたとは親子となりました。
 遠くを隔てて家族と離れ、このように姿を変えてしまったのは辛《つら》いものです。
 長い間、この荒れ果てた家を流しています。
 を追うごとに、華やかだった京都での生活に思いを馳《は》せます。
 異国の地で虐《しいた》げられ、灯台鬼姿を変えられてしまいました。
 なんとかして、再び故郷に帰って暮らしたいものです。


haname【解説】

 灯台鬼は、決してロウが熱くて涙を流したわけではないことが分かりますね。
『狂歌百鬼夜興』では狂歌なので、パロって、実はロウが熱くて泣いたんだよと、したわけです。
 灯台鬼妖怪と言うより、妖怪にされてしまった人間と言った方が良いでしょう。
 灯台鬼にされた原因不明なのが怖いですね。
 異国の地姿を変えられて帰れなくなってしまうという、でもある、これ系の都市伝説ルーツとでも言えるお話ですね。

 え? 灯台鬼はこのあとどうなったかって?
『宝物集』『平家物語』によりますと、ちゃんと息子日本連れて帰ったそうなので、ひとまず良かったということで。
 なお、別の結末もありまして、『和漢三才図会』などでは、帰る途中の島は亡くなり、亡くなった島鬼界島名付けたとなっています。

 挿絵では、灯台鬼のようなものが掛けられていますが、この構図『狂歌百鬼夜興』よく似ているので、参考にしたのかもしれませんね。


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[2]小袖の手 ~『狂歌百鬼夜興』に描かれた妖怪たち~

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狂歌百鬼夜興
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小袖の手
『狂歌百鬼夜興《きょうかひゃっきやきょう》』[天保元(1830)年刊、菊廻屋真恵美《きくのやまえみ》編、青洋《せいよう》画、虎岳《こがく》画]
大阪公立大学中百舌鳥図書館所蔵(CC BY)国書データベース
※カラーの画像は、こちらでご覧になれます。国書データベース
※以下、赤字の書入れは筆者。


【原文】

▢小袖ノ手
 朝顔の 模様果無《もようはかな》き 古小袖 つる/\と 細き手を 出《いだ》しけり  自照女《じせうじよ》


【現代語訳】

▢小袖の手
 から短い時間だけしか咲かない朝顔模様が、若くして亡くなった元の持ち主の娘思い起こさせて、見ているだけではかなく[むなしく]感じる古い小袖が、つるつると朝顔の蔓《つる》のような細い手を出します。 by 自照女《じしょうじょ》


haname【解説】

 小袖江戸時代の女性スタンダードに着ていた、袖口が細い着物です。
 小袖からが出るのは、亡くなった娘の、この世への未練からか、それとも怨念からなのでしょうか。


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狂歌百鬼夜狂
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haname これだけで終わるのは芸がないので、次に『狂歌百鬼夜興』が、直接コンセプトをパクった先行作品『狂歌百鬼夜狂』では、小袖の手に対して、どのような狂歌が詠まれていたのか見てみましょう。
 なお、『狂歌百鬼夜興』では一部の妖怪挿絵が描かれていますが、『狂歌百鬼夜狂』には挿絵が全くありません。

『狂歌百鬼夜狂《きょうかひゃっきやきょう》』[天明五(1785)年刊、平秩東作《へづつとうさく》編]狂歌百鬼夜狂 / へつゝ東作 [編]

【原文】

   小袖の手 高利刈主

 小袖より またも手の出る 虫干しハ 利を恨みたる 質《しち》の文壳《ふみがら》[「質の文殻」は、質流れして紙切れになってしまった質札の事を意味するか]


【現代語訳】

   小袖の手 by 高利刈主[「高利借り主」のもじり]

 虫干しをするたびに、小袖から手が出るのは、利息を払えずに質流れして小袖を失った、元の持ち主の娘恨みなのでしょう。


haname【解説】

 小袖からが出る原因が、元の持ち主の娘恨みと言うことがハッキリ書かれていますね。
 質流れして手元から離れてしまった小袖なので、元の持ち主はまだ生きてるかもしれません。
 となると、この小袖の手生霊と言うことでしょうか。
 それはそれで、怖いです。


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今昔百鬼拾遺
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haname で、せっかくなので、さらにさかのぼって、『狂歌百鬼夜狂』『狂歌百鬼夜興』影響を受けまくっている、鳥山石燕妖怪絵本での小袖の手を見てみましょう。
 妖怪としての小袖の手は、モデルはあるかもしれませんが、おそらく、これが初出です。

小袖の手石燕
小袖の手石燕+小袖の手石燕++
『今昔百鬼拾遺』[安永十(1780)年刊、鳥山石燕作画]
※国立国会図書館デジタルコレクション 百鬼夜行拾遺 3巻 [2] - 国立国会図書館デジタルコレクション


【原文】

   小袖《こそで》の手《て》

 唐詩に「昨日施僧裙帯上《さくじつさうにほどこすくんたいのうへ》、断腸猶繋琵琶絃《だんちヤうすなをびわのいとをかけしことを》」とハ、妓女《うかれめ》の兦《う》セぬるを悼《いた》める詩《し》にして、僧《そう》に供養《くヤう》せし妓女の帯《おび》に猶《なを》琵琶《びわ》糸の繋《か》ゝりて有りしを見て、腸《はらハた》を断ちて悲しめる心也。
 全て女ハ果無《はかな》き衣服《いふく》調度《てうど》に心を留《とゞ》めて、亡き跡の小袖より手の出《いで》しを目《ま》の当たり見し人有りと云ふ。


【現代語訳】

   小袖の手

 唐詩[中国の詩]に、
「昨日《さくじつ》僧《さう》に施《ほどこ》す裙帯《くんたい》の上《うへ》、猶《なを》琵琶《びわ》の絃《いと》を繋《か》けしことを断腸《だんちヤう》す」
 とありますが、これはある遊女が亡くなったのを追悼するです。
 供養させるその遊女飾り帯に、生前に弾いていた琵琶の交換用のが、まだかかっていたのを見て、もが腸《はらわた》がちぎれるほど悲しんだ、という気持ちを詠んだです。
 全ての女性は、はかない[取るに足らない]衣服日用品を留《とど》めるもので、亡くなったあとでも、生前に着ていた小袖からを出したのを、目《ま》の当たりに見たがいるそうです。


haname【解説】

 直接関係のないような、漢詩について述べられていますが、おそらく、このが出る小袖が、遊女の物であったことを暗示していると言われています。

 小袖の上ロウソクが置かれていますね。
 ひょっとしたら、このからイメージして、『狂歌百鬼夜興』では、小袖の手灯台鬼セットで描かれたのかもしれません。
 ちなみに、「はかなき」という言葉『狂歌百鬼夜興』共通してますね。


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狂歌百物語
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haname こうなったら、もういっちょおまけで、最後に、後発『狂歌百物語』小袖の手を見てみましょう。
『狂歌百物語』全ての妖怪挿絵が描かれ、『狂歌百鬼夜狂』『狂歌百鬼夜興』一妖怪につき一狂歌でしたが、一つの妖怪何首狂歌が詠まれている大著です。
 なので、とても全ての狂歌紹介する気力はないので、挿絵だけ参考程度にどうぞ。

小袖の手百物語
『狂歌百物語《きょうかひゃくものがたり》』[嘉永六(1853)年刊、天明老人尽語楼《てんめいろうじんじんごろう》編、竜斎正澄《りゅうさいまさずみ》画]
※富山大学附属図書館ヘルン文庫所蔵 富山大学学術情報リポジトリ

haname 着物の模様になっていて、キャラクターとしては一番面白いですね。


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haname というわけで、次回以降の『狂歌百鬼夜興』に描かれた妖怪たちも、『狂歌百物語』『狂歌百物語』鳥山石燕の妖怪画集との比較をしながら、お茶を濁していこうかなとヾ(๑╹◡╹)ノ"


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[1]『狂歌百鬼夜興』に描かれた妖怪たち

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haname(←この人がこのブログの管理人の北見花芽です)

三つ目アイコン(←この妖怪が自称このブログのマスコットだかアシスタントの三つ目です)


haname 三つ目に質問だよ、「日本三大・妖怪狂歌集」と言えば?

三つ目アイコン え? なにそれ? 聞いたことないよ 。

haname 答えは、

◆『狂歌百鬼夜狂《きょうかひゃっきやきょう》』[天明五(1785)年刊、平秩東作《へづつとうさく》編]

◆『狂歌百鬼夜興《きょうかひゃっきやきょう》』[天保元(1830)年刊、菊廻屋真恵美《きくのやまえみ》編、青洋《せいよう》画、虎岳《こがく》画]

◆『狂歌百物語《きょうかひゃくものがたり》』[嘉永六(1853)年刊、天明老人尽語楼《てんめいろうじんじんごろう》編、竜斎正澄《りゅうさいまさずみ》画]

 だよヾ(๑╹◡╹)ノ"

三つ目アイコン 知らなかった! ヾ(๑╹◡╹)ノ"

haname 知るわけないじゃん、たった今、ワシが決めたんだもんヾ(๑╹◡╹)ノ"

三つ目アイコン ぎゃふん! ヾ(๑╹◡╹)ノ"



haname 今回は、その中から、『狂歌百鬼夜興』挿絵で描かれている妖怪を取り上げます。

 描かれている妖怪を個別に紹介していくので、そこそこ回数は稼げると思いますヾ(๑╹◡╹)ノ"

 今回は、手始めに『狂歌百鬼夜興』妖怪が描かれている挿絵ページを一挙公開!

 尚、オリジナルカラーなのですが、使用できる画像がモノクロしかなかったんで、雰囲気だけでもと、私が着色しときました(笑)


大阪公立大学中百舌鳥図書館所蔵(CC BY)国書データベース
※カラーの画像は、こちらでご覧になれます。国書データベース
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 笛を吹く灯台鬼小袖の手が補助し、切禿《きりかぶろ》は琴、大座頭は琵琶を弾き、は腹鼓を叩き、小間使いの酒買小僧が控えています。

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② 宮中に仕える蔵人姿の一つ眼と、官女姿の舐め女が、破《や》れ車を引き、巻物を広げる坊主姿の三つ目の前で、鉄鼠《てっそ》が経文をかじっています。

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③ 叢原火《そうげんび》の先導で、遊女姿の毛女郎雪女、そして下男の曝れ頭《されかうべ》が続き、それを遊客姿の天狗と下男の狐火がウヒョーと見つめています。

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④ 火柱を消そうとしている火消し婆と、牡丹灯籠を持つ美女に化けた猫又が、飛んでくる人型の金の精に驚いています。

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⑤ 高入道が持つ器の中から、舟幽霊が「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」してます。

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haname それでは、次回から、小袖の手から順に紹介して検証していきますよ~!



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北見花芽

文学やったり音楽やったり美学を貫いたりしてる自由人です♪
一応、それなりに江戸文学の専門的な研究をして、それなりの学位を取得していますヾ(๑╹◡╹)ノ"

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