haname それでは、続いて、謎の妖怪切禿をどうぞヾ(๑╹◡╹)ノ"

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狂歌百鬼夜興
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切禿01切禿02
『狂歌百鬼夜興《きょうかひゃっきやきょう》』[天保元(1830)年刊、菊廻屋真恵美《きくのやまえみ》編、青洋《せいよう》画、虎岳《こがく》画]
大阪公立大学中百舌鳥図書館所蔵(CC BY)国書データベース
※カラーの画像は、こちらでご覧になれます。国書データベース
※以下、赤字の書入れは筆者。


【原文】

▢切禿《きりかぶろ》

 古寺に 然《さ》も美しき 切禿 怖や真《まこと》の 人に為《な》しても  菊廼屋《きくのや》


【現代語訳】

▢切禿《きりかぶろ》

 古寺に、いかにも美しい切禿がいます。妖怪ではなく本当の人だったとしても、怖いったらありゃしない。 by 菊廼屋《きくのや》


haname【解説】

「切禿《きりかぶろ》」とは、子供の髪型、いわゆるおかっぱ頭のことで、おかっぱ頭の子供の事も指します。
 単に、「禿《かぶろ》[《かむろ》とも]だけでも、「切禿」同じ意味で使われ、遊郭遊女の身の回りをする見習いの幼女のことも指します。
 ここで描かれているのは、単なる子供の妖怪ではなく、遊郭の禿の妖怪でしょう。
 挿絵ではを弾いていますね。
 禿遊女になるための修行で、三味線練習をします。
 
 しかし、挿絵遊郭の禿なのですが、狂歌「古寺」に出ると詠まれています。
 遊郭の禿古寺にいるはずがないので、狂歌で読まれているのは、遊郭の禿の妖怪ではないということになります。
 挿絵を描いた人狂歌を詠んだ人別人なので、両者別の切禿イメージしていると思われます。
 では、狂歌で詠まれている切禿何者なのでしょうか?
 寺にいる子供と言えば、そう稚児です。
 稚児とは剃髪前少年修行僧の事で、要は僧侶の男色の相手となる存在でした。
 狂歌で詠まれているのは寺の稚児の妖怪ということでしょう。
 美しい稚児はそれなりの由緒ある寺にはいるでしょうが、古寺には不釣り合いで、妖怪であっても人間であっても出会ったら恐ろしいでしょうね。
 そもそも、子供なのに年上の僧侶たちメロメロにする、稚児と言う存在自体恐ろしいですよね。
「禿」という呼称遊郭の幼女だけではなく、寺の稚児に対しても使われていたのでしょうかね。
 現在でも、祇園祭の稚児家来役の少年禿《かむろ》と呼ばれるのは、その名残でしょうか。
 ちなみに、この狂歌を詠んだ菊廼屋《きくのや》は、『狂歌百鬼夜興』編者です。



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狂歌百鬼夜狂
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『狂歌百鬼夜狂《きょうかひゃっきやきょう》』[天明五(1785)年刊、平秩東作《へづつとうさく》編]狂歌百鬼夜狂 / へつゝ東作 [編]


【原文】

   切禿《きりかぶろ》 今田部屋住《いまだへやずみ》


 振り向けば 廊下に立ちし 切禿 ひそ/\聲の 死にんすと言ふ



【現代語訳】


   切禿《きりかぶろ》  by 今田部屋住《いまだへやずみ》


 振り向けば廊下切禿が立っています。そして、小さくささやく声で「はもう死んでいますのよ」と言うのです、ゾゾーツ!

haname【解説】

 先行作品『狂歌百鬼夜狂』でも「切禿」狂歌が詠まれています。

「死にんす」遊女言葉なので、ここで詠まれている切禿遊郭の禿の妖怪だということが分かります。
『狂歌百鬼夜興』の挿絵はこの狂歌イメージしたんのですかね。

 妖怪と言うより幽霊なのですが、この頃、妖怪幽霊別物ではなく、幽霊妖怪の一種として扱われる傾向がありました。


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今昔画図続百鬼
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Konjakuzokuhyak3Tori_0017
Konjakuzokuhyak3Tori_0017+Konjakuzokuhyak3Tori_0017++
『今昔画図続百鬼』[安永八(一七七九)年刊、鳥山石燕作画]




【原文】

 
  大禿《おほかぶろ》


 傳へ聞く、彭祖《はうそ》ハ七百余歳《ななひやくよさい》にして、猶《なほ》、慈童《じどう》と称《セう》す。
 是、大禿《おほかぶろ》に非《あら》ずや。
 日本にても、那智《なち》、高野《かうや》にハ、頭《かうべ》禿《かぶろ》に、歯《は》豁《あばら》なる大禿《おほかぶろ》有りと云ふ。
 然らバ、男禿《おとこかぶろ》ならんか。


【現代語訳】

   大禿《おおかぶろ》


 伝え聞く所によると、彭祖《ほうそ》[周の穆王《ぼくおう》に愛された少年。菊の露を飲んで不老不死の千人になり、菊慈童と呼ばれる]は、七百数歳になっても、まだ、慈童《じどう》と呼ばれていました[老人の年齢なのに「童」と呼ばれていたということ]
 この慈童こそ、妖怪大禿《おおかぶろ》ではないでしょうか。
 日本でも、那智山高野山には、[髪型]禿《かぶろ》歯抜けの、大禿《おおかぶろ》というべき者が居ると言います。
 ということは、妖怪大禿《おおかぶろ》は、女の禿《かぶろ》ではなく、男の禿《かぶろ》の妖怪と言うことでしょうか。



haname【解説】

 先行作品鳥山石燕妖怪画集には、「切禿」という名称ではなく、「大禿」という名称同様の妖怪が描かれています。
 年を取っても子供の姿をしている者揶揄して、大禿という妖怪扱いにしているということでしょう。


 寺院の稚児でも一定の年齢になったら元服するのですが、男色の相手として必要とされ、元服せずに、いつまでも稚児の姿のままで年を重ねる者もいたようです。
 大稚児[年長の稚児]大童子[寺院で召し使われる童子で、上童子と中童子の間の地位の者]とも関連があるのでしょうかね?


 挿絵大禿着物の模様で、本文にも出てきた菊慈童を表しています。
 また、オチリの穴意味し、男色示唆《しさ》しています。


『狂歌百鬼夜興』はこの「大禿」イメージして詠まれていると思われます。


 ちなみに、「頭禿に歯豁なる」という一文は、「頭童歯豁《とうどうしかつ》」という四字熟語を踏まえた言い回しです。
「頭童」子供の坊主頭「歯豁」歯抜けの事で、子供の坊主頭のように毛が抜け落ちて、歯が抜けているような老人のことを意味します。


 みなさんが最初に思い浮かんだように、もちろん、「禿」にはハゲという意味もあります。
 つまり、「頭禿に歯豁なる」という一文を読んだ読者が、
歯が抜けるほど年取ってるんやったら、髪型は、禿禿でも、おかっぱじゃなくて、ハゲてるやろ!」
 という突っ込みをするのを、石燕さんは、意図していたのでしょうねヾ(๑╹◡╹)ノ"

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